禍福は糾える縄のごとし。
言わぬが花よ人生は。
会うは別れの始めなり。
さよならだけが人生だ。
確かにさよならだけが人生かも知れない。
アキショム80が我が家にあった間(約2年)にはいろんな出来事があった。
そして、ぞっこん惚れ込んだアキショム80も、結局本来の持ち主のところへ帰っていった。
色んな意味で、あんなに寂しい思いをしたことはない。
代わりに来たのがアルテック・A5だった。
ボイス・オブ・ザ・シアターで有名な劇場用のスピーカーである。
かなりの大型スピーカーであることに加え、ネット・ワークが古いタイプで4段階の切り替えしかない。
当然上手く鳴らない。
私とA5との悪戦苦闘が始まった。
最初の問題は低域のふらつきだった。これはすぐに解決。ウーハーの位相反転が原因。
次が中域の艶と張り出し。これもケーブルで何とかなった。
どうにもならなかったのが弦の音。どだい無理な話かも知れないのだがマニアとしては諦められない。
そこで私は,音作りはプリアンプだからプリを何とかすればいい、と思い自作することにしたのだが、
それがどんなに大変な事か、程なく身にしみて思い知らされた。
確かに、図面から部品をリストアップし、シャーシーを加工して組み立て音を出す。
ここまでは少し電気の知識が有れば誰でも出来る。
ここから先の、アースの引き回しや調整が大変なのである。
ここから先は本気でやると、本業そっちのけになるからなおのこと始末が悪い。
しかし、自作のアンプの楽しさはまた別格である。
音が出るだけで嬉しいし、少しでもいい音になれば尚嬉しい、多少の事は目をつぶることも出来る。
そんなこんなで都合4台のプリを作った。
街の小さな電気屋の店頭にアルテック・A5が置いて有ればマニアには否が応でも目に付く。
いろんなオーディオマニアが出入りするようになり、ある時、ラックッスのMB300を買わないか、
と言う話が来た。
1985年(だったと思う)ラックスが真空管から撤退するにあたり、今まで蓄えた真空管技術を
総結集した、ラックス技術陣の記念碑的作品で、名機中の名機である。
それを言われるままに、ついつい買ってしまった。
しかしこのアンプはしばらく友人の家に隠して置かざるを得なかった。
その頃、私のあまりの浪費に我が「山の神」は相当お冠だったのである。
それでもウェスタン300Bの名機が来たとなるとそれだけで終わるわけがない。
ラックスMB300に合うプリアンプ、これはもう同じラックスC−36Uしかない。
ところがこれがなかなか無くて、1年近くたって、神戸のオーディオ・ショップで売りに出たので
すぐに予約し、神戸へ引き取りに行った。
ラックス C−36U,MB300となれば、今度はアルテック・A5との相性が問題になってくる。
いよいよタンノイ・ウエストミンスター・ロイヤルが標的となったが、問題は我がパートナーをどう
懐柔するかにかかっていた。
そしてこのスピーカーを手に入れたことが後々FASTの発売元になる大きなきっかけとなった。
災い転じて福となり,福転じて災いとなる。まさに禍福は糾える縄のごとしである。
ウエストミンスター・ロイヤル獲得大作戦は次回。
(つづく)