(有)出水電器 島元のブログ

2001年10月24日の記事

【メリージェーン】と元ジャズメン

[ オーディオロマン街道 ]   2001年10月24日

懇意にしている寿司屋さんに変わった人が働くようになった。
どういう風に変わっているのかというと、決して男前と言うのではないのだが、何とも言えない
親近感、暖かさを感じさせる、そんな不思議な人だった。
それに仕事であれ何であれ、すごく積極的にチャレンジする明るい人でもあった。

時々飲み屋で会ったりして口も聞くようになった。
どうも以前はかなり良いジャズのドラマーだったらしい。
確かにその方面のことも詳しく、いろんな話も教えてくれた。
何があったのか知らないが、音楽界の汚さがイヤになり足を洗ったのだという。
それでも年に1.2度昔の仲間と集まってドラムを叩くこともあると言っていた。

そんなある日、その人がかなり酔っぱらってカラオケを歌った。
足下もおぼつかなく、右手をだらりと伸ばし,不思議な、しかし何とも様になったポーズだった。
そして少し音程をはずした歌い方で歌ったのが【メリージェーン】だった。
しかし数小節も歌わない内に鳥肌が立ってきたのである。
上手い、けた外れに上手いのだ。
哀感を帯び、時に切なく、時に情熱的に、切々とした不思議な歌だった。

音程もはずしたのでなく少し崩して自分のスタイルで歌っていたのだった。
歌い終わったときは全員の拍手が暫く鳴りやまなかった。

それ以後、その人のことをみんなが【メリージェーン】と呼ぶようになった。
私も同席したときはいつも【メリージェーン】をリクエストした。
あの歌(歌い方)はあの人しかできなかった。誰が歌っても魅力が薄れてつまらなく聞こえてしまう。
プロのミュージシャンとして培った音楽の素養だけでなく、今までの生き方もあって、きっとあんなに
ひと味もふた味もある歌い方が出来るのだろう。

その彼も、1年もしたら風のように去っていった。
今は信越地方にいるらしい。
彼の地で、もし【メリージェーン】をとてつもなく上手く歌う人がいたら彼かも知れない。

ビーリ・ホリデイやティナ・ターナの歌も、それぞれに悲惨な人生を乗り越えてきたから歌える歌
なのだろう。
だからこそあんなに人の心を捕らえることが出来るのだと思う。

逆境は強い意志を持つ人を、宝石のように磨き、光らせる。
そして、音楽は歌う(演奏する)人にも聞く人にも、勇気と希望を与えるのである。


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